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2018.02.20

オリエンタルホテルロビーの香り

 

 

一昨日をもちまして京都展、無事に終了いたしました。

寒い中、お運び頂いた皆さま心より感謝申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

さて。

先週の週末から春の訪れを感じてます。

日暮れの時刻も少しずつ遅くなってきております西日本、本日も気持ち良い空でした。

 

 

テーブルの上の白いヒヤシンスが、この2日で花開き、爽やかな香りをフラワーベースからほどよく送ってくれる。

幸せな気分だ。

このヒヤシンスの香りがふっと過去の記憶を甦らせてくれた。

 

世界でもホスピタリティで名高い憧れのバンコクオリエンタルホテル。

旅行会社サラリーマン時代、毎年バンコクまでのチケットとこのホテルの予約を頼まれるお客様がいらっしゃった。

ホテルの魅力を尋ねるのだが、具体的な話はいつも聞き出せずじまいでいた。

 

ようやく訪れることができたのは、会社勤めを辞めこの仕事でようやく自分の流れをつかみ始めた10年ほど前だった。

 

街の視界がぼやけるほどの蒸せる暑さ。

5月のバンコクは勧められないなあ、暑くて日中は息もまともにできやしない。早く建物の中に入らなきゃ。

そんなことを思いながらホテルに到着し、足を踏み入れた途端、一瞬にして水を得た魚のような気分になった。

ロビー正面の天井まで突き抜けるほどのガラス張りの向こうには、ガーデンの新緑が目に涼しく、川風に揺れる南国独特の背の高い木が揺れる様を見ていると、あんなに暑かった外が勘違いであったかの様に思えた。

しばし、深呼吸をしてたちすくんでいたら、両手を胸のあたりで合わせて微笑むドアマンが声をかけてくれた。

 

外は暑かった。カフェで冷たいものを飲みたいのだけど。

ご案内しましょう。

にっこりと微笑んでくれ、歩調を合わせながらカフェへと案内してくれた。

王道のタイスマイルだ。

街のあちこちで出会うこのタイスマイルには、本当に心が澄んでいくような気分になる。

ホテルに入った時からずっとどこからともなくやさしく花の香りが漂ってくる。

この香りは何ですか?

これは、タイに咲く花とレモングラスをブレンドした当ホテルのオリジナルアロマオイルの香りです。

 

こんなに広いロビーなのに、かすかに漂っている。

ほどよい香の濃度。

まるでどこかの庭園を歩いているようだった。

 

 

冷たいものを飲むつもりで訪れたカフェでは、メニューの中にモロッカンミントティーを見つけ私は嬉々とした。

過去に訪れたモロッコのミントティーがずっと忘れられないでいた、アフリカの北先端から遠く離れたアジアの地でまさかあの紅茶が再び味わえるとは!

フレッシュミントを多めにお願いできるかとリクエストしてみた。

 

もちろん。

大きな黒い瞳の女性は、音もたてずにしなやかにメニューをさげながら、今日はお席が空いているから、お好きな席に移動しても大丈夫ですよ。

そして、王道のタイスマイル。

 

見渡すとコーナー別に趣の違うしつらえとなっていた。

近くにいた先客が話が盛り上がりりつつあるのを、気遣ってくれたようだった。

 

すっかり気分よくなり、喉も潤った私は、精算を済ませて再びロビーへと戻ってみた。

 

先ほどは気付かなかったのだが、これまで見たこともないほどの大きなガラスのフラワーベースが、ガラス窓からシックな布張りの壁の辺りまでズラッと並ぶ様が目に飛び込んできた。

圧巻だった。

 

日本では見ることのない珍しい花が活けこまれたフラワーベースたちは、目線より少し高い位置にあり、外のガーデンの緑の間から射し込む太陽の光を計算している。

花は飾っているが、そこに行き交う人々が主役であるのだという演出が含まれているのだと気づいた。

 

モダンだ。

オリエンタルモダン。

 

よく見るとそのガラスのフラワーベースは、どれも一滴の水跡もなくピッカピカに磨かれていた。

目線にフラワーベースが入る位置というのは、とても勇気のいることだ。

水の濁りやフラワーベースの水垢、怠ればすぐにお客様の目につく。

 

ガラスに入った水の中の茎、その隙間からこぼれ落ちる太陽の光。

その高さ加減は、ソファに腰掛けた時ゆったりとあたりを見回すのにちょうど良い高さだった。

人がフラワーベースの前を通り過ぎる時に、動く光。

 

気持ちがその時間にゆったりと溶けていくのを感じた。

リラックスとはこういう瞬間をいうのだな。

 

忙しいと、人は目の前か足元しか見えなくなるものだ。

ソファに腰掛けてあたりに視線をゆっくりと動かし、気持ちと時間が溶け合うのを味わった。

 

 

 

あのお客様、ホテルの魅力についていつも口にしていたな。

 

とにかく、行けば分かるよ。

泊まればもっと分かるから。

 

 

魅力というものは、語るものではなく各々が感じ取るものなのだろう。

魅力とは個人の深い部分に寄り添うものであり、敢えて言葉に置き換えて並べ連ねる必要もないのかもしれない。

多くを語らなかったあのお客様に今更ながら感謝した。

 

 

 

 

春目前の我が家のテーブルの上のヒヤシンスの香り。

あの時のオリエンタルホテルのロビーの香りとクロスし、静かに部屋中に広がってゆくような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

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