2021.05.09
とっておきのライブラリタイム
忘れかけていたことや少しでも気持ちが動くのであれば飛び込んで実際にやろう。
そう自分に決めたのは、昨年から始まったこの生活の渦中でのこと。
先月から絵本と積極的に触れるようにしている。
これは、忘れかけていたことのひとつ。
10年以上前に図書館の絵本コーナーに通っていた時があった。
目的は、表現するという観点から、絵本の削ぎ落とした世界に自分なりの表現への学びを得たかったからである。
ストーリーも言葉も極限に削ぎ落とした表現。
そしてそこに添えられている絵は、ページを見つめる人間の想像力に強力なスイッチとして働きかける。
何冊何冊も読んでいると作家はどこを切り落として何を引き立たせたのか、それをどんなタッチの絵でどんな色で表現しているのか。
そんな目を持って何度も何度も読みたくなる絵本に出会う。
今回、とても気に入った絵本に数冊出会った。
中でも絵本専門店で、別な絵本を探していた時に何故か惹きつけられるようにして手にした絵本が、私をとても魅了した。
ポーランドの絵本作家ユリ・シュルヴィッツが、唐の詩人、柳宗元の漢詩「魚翁」からインスピレーションを得たという絵本。
この絵本は、色はあるというのにまるで墨絵のような不思議な感覚を与えることにまず驚いて、巻末の作品紹介の中に唐の詩人の詩がベースになっているという件を読み、合点した。
その後、もう一度改めてページをめくると、
ストーリーの時間軸が絵本の中の余白にも反映されていることに気づいた。ラスト数ページは絵であるのにまるで写真をみているような錯覚になり、次にその景色の中に自分自身が入り込み、目を細めたくなるほど眩しさを感じたり、風が頬に当たっているかのような感覚におそわれた。
主人公が体験していることが自分自身の体験に完全に置き換わり一致した感覚になったのだ。
凄い。
詩人の作品を絵本作家のフィルターに通して、新しい表現で生み出す。
こんな表現方法もあるのか。
とても感激した。
この絵本は手元に置いておきたい一冊だと思い、探していた絵本は次回にしてそのままレジに向かった。
こんな素敵な出会いがあった時は、とっても満たされて心弾む思いである。
秘密にしておきたいような。でも、誰かに伝えたいような。
もし、ご興味を持たれたならば、絵本の「よあけ」と柳宗元の「魚翁」と合わせてご覧くださいませ。
山を知っている方は、きっと心に満ち満ちと広がるでしょう。
嗚呼、この感覚は、あの感覚だ。
と。
今、私のとっておきのライブラリタイムは、何冊かの絵本に占められている。皐月の風の下、ベランダにお茶と絵本を持って腰かけて青空の下でゆっくりとページをめくる。
自分なりの幸せな時をかみしめる手段があること自体が、幸せなのだろう。
人生は、自ら探しに出かければ出会いに満ち溢れているものなのでしょうね。それは、必ずしも特別な場所に出かけることではなく、過去の体験から引き出して今の自分で体験してみる。
それだけでも新しいに出会える。
そう思わせてくれた一冊でした。