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2022.12.19

 

 

 

 

90歳を越えた染色家柚木沙弥郎氏の本の中で出会ったことばで、ものを作る立場の人間としてとても沁みた言葉があった。

 

僕は物心ついたのは80才位だった、これからは自分のために作ることをしようと思う。

 

前置きするまでもないが、柚木氏はあまりにも求められる立場と環境の中で多忙過ぎた時間が長かった故に出た言葉なのですが、本の中でこの言葉に出会った瞬間、私レベルに置き換えて全く違う視点で捉えたのです。

 

 

私自身がデザインをまとめるタイミングは、料理をしている時、自然の中に身を置いている時、本や音楽を楽しんでいる時、友人たちと雑談している時、と、色んな入り口で制作に入ってゆくのですが、時には人物像イメージが先行したどこかの誰かのためにひたすらまとめてゆく時がある。

 

出来上がったものが個人的に気に入って、自分仕様をのちに作ろうと思うことはある。

けれども自分自身のために作る時間を割くことはなかなか実行しにくい。

 

そうだ。

自分のためのものを作ってみよう。

 

今では仕事になったアクセサリー作りだが、当時、欲しいアクセサリーが探せられず、ないならそのようなものを自分で作るしかないよな。

そんな単純な思いがこの道への始まりだった。

仕事にしようという動機は最初はなかった。

今、仕事となったことに誰よりも自分自身が一番驚いている。

 

今年から天然石シリーズの展開を始めたのだが、夏頃仕入れた石の中でひとつだけ自分のための石として仕入れておいた。

そして、今年の出展分の制作が全て整った後に、取り掛かって先日やっと出来上がった。

 

自分のために作ったイエローオパールのリング。

 

石を一目見た時、まるで霧がかかったような控えめな光を放つ月のように見えた。その月が蓋になったような宝石箱をイメージし、ふっくらとした全体像でまとめた。

月の蓋の宝石箱。

月の箱。

ツキの箱。

 

柚木氏の本の中の言葉がきっかけで作った自分のためのリング。

制作を通して、色んな気づきを得ることができた。

 

当初から随分と変化した環境、デザインで大事にしている変わらない核の部分、制作工程のこだわりの変化した部分、何より身につけるのが自分自身であるというフィルターに通してみることは、しばらく置き去りにしていたのかもしれない。

 

そして、もうひとつ気付いたことがあった。

 

自分のため。は、きっと誰かのためになるのではないだろうか。

それは、慢心ではない。

人が心に思ったり感じたりすることは、たとえ言語、文化が違えど共通した人同士はどこかにいるのだと思う。

その信念が創作活動の原動力にもなり、出来上がったものに響く誰かに出会った時、創作の世界に携わる人間はものを介して第二言語で語るのである。

 

月の箱リング。

次回は誰かのために作ろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

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