2022.06.07
お母さまを亡くされたお客様より形見の翡翠のリングのリメイクをご依頼受けました。
実はお母様も度々、私の個展で作品をご購入頂いておりました。
前回の個展でお会いしたのがちょうど1年ほど前だったので、訃報を耳にした時は俄に信じられず本当に驚きました。
個展には帰省されたお嬢様と一緒にお越し頂き、いろんな作品を試着されながらコーディネートやお手持ちのジュエリーのリメイクなどのご相談など色々な話をされとことなどが思い起こされ、人の命は本当に儚いものだと、日頃、意識が薄い命の重さというものが急にずっしりとのしかかってきて、身体だけでなく心までもが重く感じました。
お母様がお買い上げ頂いた私の作ったものは、ご姉妹で分けられたそうで、今回はご生前リメイクのお話をされていた翡翠とダイヤモンドのリングをリメイクして欲しいというご依頼でした。
随分と涙する日は減りましたが、時おり会いたくてもこの世に居ないという現実に哀しみがたまらなくこみ上げてきてどうしようもなくなるときがあります。
母親との記憶を温かい気持ちで思い出せるようになりたいです。
そのようなメッセージを頂きました。
ご希望はリングで人差し指につけたいとのこと。
出来上がりましたのがこちらです。
デザインテーマは、
「月に腰かけていつも貴方を見守ります」
人差し指にお使いになるとのことでしたので、手の甲の側面側にもデザインを盛り込みました。
真上から見た時とサイドから見た時は、違う表情に見えます。
今は哀しい感情が、いつかは別な感情になり温かい気持ちで思い出せるように願いを込めて。
お預かりした最初のリングはこちらでした。
先日、手元に届きましたと人差し指にはめた写真とお礼のメールを頂きました。
そして、最後にこの言葉で締めくくってありました。
母に見せたいです。
その言葉に、思わずもらい泣きしてしまいました。
ご生前にお話しされてたジュエリーのリメイクは、実はこのリングだったらしいのです。
装身具とは、生きている時に愉しむためのものという贅沢な生きるのに無駄なものというイメージがつきまといます。
でも、本当に贅沢なもの、無駄なものと言い切れるのでしょうか。
古来から、家族を残し闘いに出る戦士たちや安全な航海を願う航海士たち、絆や約束、心の安定。
形あるものに託し、片時も外さずに身につけていたものでもありました。
大切な人を失い残された人間は、抱えきれない思い出や感情を手元にあるいろんなものの力を借りながら、少しずつ気持ちの転換や浄化をして日々生きてゆかなければならない。
悲しみの度合いは他人には測れず、優劣も重いも軽いもいっさいない。
今回、ご依頼を受けて改めてそのようなもののひとつとなる得る仕事であるという誇りのようなものを感じさせて貰えました。
手を動かす以前、デザインをまとめる時から始まっているその時間は、私にとってもとても貴重な時間でした。
この場を借りまして改めましてお礼申し上げますとともに、心よりご冥福をお祈り致します。