2024.09.14
岐阜展の案内はひとつ戻ってね!
暮らす場所が変わり、仕事と雑務、楽しい来客が続いた9月前半だった。
日没から気まぐれに降ったりやんだりを繰り返していた雨が、今は静かに降り続いている。
暑さがひっきりなしに続いていたせいだろうか。
夜の静かな雨は、不思議と心が落ち着く。
住まいが変わり1ヶ月が過ぎた、目まぐるしさと慌しさに句読点。
以前、展示台で使っていた厚みのある天板を広縁に床の間風に置いてみた。
夜の障子越しにふんわりと広がる灯りと香炉のシルエット。
障子の向こうに少しだけ広がるスペースの広縁は、これまで住んだマンションとは全く違い、とても新鮮で自由な感覚をもたらしてくれる。
実は、広縁にはもうひとつお気に入りのスペースがある。
二部屋続きの縁の突き当たりの壁に背の高い本棚を置き、ぐっと減らした文庫本や写真集や絵本をゆったりと並べた。その角の壁を背もたれにして座れるように置いた椅子。
いわゆるおこもり図書コーナー。
冬には、日向ぼっこしながら膝掛けと温かい飲み物を持ち込もう。
このコーナーを作った時には、いったい今年の冬はやってくるのだろうかと思うほど暑かったのだが、今夜は秋の入り口に立っていると思えるほどの、ざわつきもなく穏やかさに満ちている。
ふと、長く住んだ福岡での日常のシーンが次々と甦ってきた。
何度も渡った横断歩道。
ヨガの帰りに寄り道してたコンビニ。
早朝、自転車で出かけていたお気に入りのパン屋のモーニング。
定期的に立ち寄った花屋。
バスから見える福岡の街並み。
いい街だったなあ。
生まれた時からあまり住む環境が変わらない方もいらっしゃるかもしれないが、私はどうやら仕事や旅、趣味、引越しの数が多いことも含めるといろんな景色を見る人生のようだ。車の免許を持たないことで、見るものを留めておける程のスピードで生きているということも影響しているだろう。
暮らす場所が変わると、過去が折りたたまれ今をアップデートし、明日以降がどんどん分厚くなってゆく。
けれども何かの弾みで折りたたまれた過去が、まるでバンドネオンのように波打ち拡がりながら、今と過去を行ったり来たりする瞬間がある。
それは環境の変化がなじみ始めた頃や変化の起こる直前に多い。
かつて見た景色であったり、音であったり、言葉であったり、誰かの笑顔であったり。
これを思い出というのだろうか。
それは、誰とも共有できない自分だけのもの。
環境や暮らす場所が変わることは、体力のみならず気力も消耗するし、メンタル力も必要だが、過去の自分と向き合う機会を得られ、心の中のひだはどんどん広がってゆくように思える。
変化は、好ましい経験だ。
今夜の雨は、長く住んだ街に居た過去の自分と出会う時間を与えてくれた。