2022.12.21
冬の日本の贈り物
10年以上前のこと。
福岡へ遊びにやってきた母親と共に地下街をショッピング兼ねて歩いていた時だった。
「そういえばあなたがお父さんに贈ってくれた半纏、あれねすごい気に入ってるみたいで、いっつも冬になると着てるわよ。もうあちこち外側の生地が破けちゃってね。何度も繕いながらまだ着ているわよ。あれ高かったんじゃない?」
「もう金額は覚えて無いけど、私が当時買えた金額だからそうでもなかったんじゃないかな、でも久留米絣とお店の人に言われたよ」
「あなたは持ってるの?」
「持ってないよ」
「福岡は寒いじゃない、買ってあげるわよ」
まだお店は同じ場所にあるだろうかと思いながら、父のために半纏を買ったお店を訪ねた。
可愛らしい赤の久留米絣の半纏を見つけると、
「これ、ちょっと羽織ってみて」
羽織った私の姿を見た母は、すぐにお店の方に
「じゃ、これをお願いします」
と、さっさと会計を済ませてしまった。
それから、何度か母に着ているかと尋ねられたことがあり、暖冬を理由にしたりしていたが、そのうち母自身もかさばるしフリースの方が便利よね。
私も今はフリースばっかりよ。
と、言ったのが最後でもう聞かれることもなくなっていた。
実は買って貰って10年以上経つのに、一度も袖を通していなかったのだ。いつも衣替えの度に目には入っていたのだが、とっても寒い時に着ようと思い、つい手軽に羽織れるフリースをパジャマの上に着て過ごしていたので、
母から尋ねられる度にうしろめたい気持ちになっていた。
昨年あたりからだろうか、なんだかフリースを着ていると首や肩が凝るように感じ始めていた。
うまく説明できないのだが、着心地がリラックスできない。
年齢のせいだろうか、ガウンを探しに行こうかな。
今年の衣替えの時半纏が見えた瞬間、
そうだ!これがあった。フリースを辞めて、これを着よう!
先週から雪模様の福岡。
なるほど、羽織るとほんとに温かい。
明らかに重さはフリースより半纏の方が重いはずなのに軽く感じる。
袖が短いから寒くないだろうかと思ったが、動きやすくちょっとした洗い物やハンドクリームを塗るのにもむしろちょうど都合がよい。
ちょうどよい位置に大きなポケットもある。
衣類と衣類の間の空気層と中綿の空気層のせいか、まるでお布団の中にいるみたいな気分なのだ。
今では、すっかり気に入ってしまい愛用している。
母は確かあの時、自分のものは買わなかった。
今度、母のものを買って送って驚かせよう。
冬の日本の贈り物。
江戸時代、庶民の間では家族のために手縫いしたちゃんちゃんこが贈られたのだろうな。