2021.07.09
気持ちが戻る場所
蝉が鳴き始めた。
そろそろ梅雨も明けるのだろう。
慌ただしい月日の流れにカレンダーも未だ6月のままだった。
先日の鹿児島個展から福岡へ戻る途中、中学高校時代を過ごした北薩で新幹線を下車し、暫くぶりに同級生と会った。
どこに行きたいかと尋ねられ、リクエストした地は長島方面。
梅雨の晴れ間でお天気もよく、友人も長島方面に連れて行こうと思っていたらしく、とっておきの場所があると連れて行ってくれたのが針尾公園。
夕陽の綺麗な海岸線に位置する阿久根市から車を走らせると、橋で繋がっている長島は美味しい焼酎でも有名になった土地でもあり、橋の下の海流は潮と潮がぶつかり合い、なるとが渦巻いているのを見ることができる。
橋を越え島の先端からフェリーで超えると牛深、天草へと繋がっています。
ここは、景色が大変に素晴らしく車のみならずバイクやサイクリストには最高のコースである。
初めて訪れた針尾公園は、瀬戸内の山から眺めた景色によく似ていた。
ああ、随分と山にも登っていないなあ。
思いっきり深呼吸をして全身で伸びをした。
若い頃は、都会に憧れるもので見向きもしなかった景色が、今はとても宝に思える。
父親の仕事の関係で5年ほど住んだ町だったが、借家住まいだったがその場所に立つと不思議と故郷のような気持ちになる。
夏休みの海岸でのラジオ体操当番や、春に海岸に打ち寄せるわかめを家族で採りに行ったこと、野生の鹿が住む小さな島に海水浴に行ったこと、友達と電車に乗って映画館に行ったこと。
今思えば、とても贅沢な時間だったのだ。
小さい頃に住む町は、田舎であればあるだけ大人になってから訪れると味わい深いものであるように思う。
憧れる都会も必要だが、回帰する田舎町も必要だ。
どちらも知っているということは、生きてゆく上で出会ういろんなシーンを目にするたびに、日頃仕舞われている自分だけの記憶がふわりと現れる。
それは、まるで心が手足をゆっくりと伸ばすように身体中の力が緩み、この上ない安らぎを与えてくれる。
都会も田舎も等しく価値がある。
公園から景色を眺めながら思った。
オーダー制作が終わったら、久しぶりに山へ登ろう。