2018.01.28
菓子の想い出
菓子はな、想い出なんだ。
子供の頃に、一生心に残るようなおいしい菓子を食べていれば、その子の心は豊かになる。
そんな想い出をたくさん持つ人間は、強い。
この頃読んだ、真山仁氏の小説の中の言葉だ。
消費期限切れの材料を使用しているという内部告発文書により世間を騒がせたのは、子供から老人まで知らぬ者はいない大手菓子メーカー。
リークしたのは、創業以来、匠と言われた伝説の菓子職人。
菓子職人は、自分に託された創業者の前だしのこの言葉を心に刻み、情熱をかけて菓子を作り続けてきた。
大手菓子メーカーとしての矜持が、彼に裏切りとも見える一大決心をさせる。
内部告発、そして同時に辞職。
数年前に起こったニュースをベースにした、社会派メッセージ色の強いあらすじだった。
お菓子には夢や安らぎ、平和が含まれている。
幼い頃のお菓子の想い出は、誰しも幾つかあるだろう。
まだドルがバカ高い頃、ハイカラな叔母がヨーロッパ旅行に行ったと、訪れた数カ国のチョコレートとそれぞれの国の通貨コインを土産に持ってきてくれた。
初めて見る洒落た色の薄い包み紙にくるまれたチョコレートは、食べる前から美味しさを約束してくれる香りが漂っていた。
そのチョコレートの美味しさと言ったら、たまらなかった。
おいしすぎて黙り込んでしまった。
叔母の話では、向こうの子供たちは食べるだけではなく温めて飲んでいるという。
「これを飲む?」今度は驚いて黙り込んでしまった。
あれから40年近く。
次々に世界中のお菓子メーカーが進出し、見ているだけで食べたような気になり、個人的にはもはや飽和状態。
人間はある一定の情報を超えると、欲することが極端に減るようだ。
正確には興味が薄らぐとでも言うべきか。
そのせいか、2、3年ほど前から、和菓子への魅力が高まっている。
そのせいではない。
単に年齢のせいですな。
和菓子に多くの美を感じる年頃になりましたで候。