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2022 January

2022.01.20

香りの儀式 その弍

 

 

 

続編のお話しです。

 

その壱ではアトリエではひとつの作品が完成した日、後片付けののちに香を焚く。

が習慣化したお話しでしたが、今回は我が家での香りについてです。

ショウルームも兼ねた自宅には様々な来客があるのですが、生活を兼ねたスペースに招き入れるということでずっと気がかりだったことが、自分には分かりにくいその家の独特の匂い。

これは、家に限らずオフィスや店舗にも不思議とあるように思います。

 

これに関しましては、以前住んでいた時からもうずっと試行錯誤をしていた。

竹ひごを使ったディフューザーを使用してみたり、アロマを焚いたり、コーン型のお香を焚いたり、ルームスプレーを噴霧してみたり、リネンウォーターを利用してみたり、あらゆることを試してみた。

なかなかピンとこなかった。

 

ある時、鹿児島の老舗お茶屋さんの暖簾をくぐった途端、香ばしくて爽やかなお茶の香りが広い店内を浄化するように包みこんでいた。

 

 

 

 

実は、茶香炉も試したことがあったのだが香りが思うほど広がらなかったのだ。

香りの方向を見ると大きめの素敵な茶香炉が目に入った。

これくらいの大きさだったらこんな広いスペースでも香りが充満するのか。

お店の方に販売をされているのかと尋ねた所、偶然にも知っている陶芸家の作品でお店のために作ってもらったものだという。

 

実家近くの窯元のその陶芸家を訪ねてもよかったのだが、ものつくりとして駆け出しの頃からお付き合いのある伊万里の陶芸家に頼んでみようと思った。

ちょうど私の個展に顔を出してくれたこともあり、昨年、春に依頼をしたところ快く引き受けてくれて秋に出来上がってきた。

 

 

 

 

大きさと色の希望だけ伝えて置いたのだが、自宅に届けてくれた陶芸家は

包みを開けながら、

「なかなかいいできなんですよ!」

キャンドルの出し入れと上皿を温める時間とキャンドル消費を考慮した出し入れしやすい小さな取手付きの燭台や大きめのキャンドルで照明器具として使う時のための平たいトレイや上皿のとって付きの替えのもの。

カスタマイズできるパーツを広げながら、実演しながら説明してくれた。

 

わ!わ!わあ!

 

大興奮する私のそばでにやにやする陶芸家。

実は茶香炉は、はじめて受けた依頼だったのだが、作り出したら面白くてカスタマイズのパーツが増えたという。

その試行錯誤の間に工房にお見えになったお客様がとても気に入ったらしく早速注文が入ったとのこと。

 

 

 

ちょっと存在感のある茶香炉の定位置は玄関先。

来客の半時ほど前から焚き始めるとなんともちょうどよいあんばいに香りが広がるのです。

廊下をつたい、リビングまでさわやかなお茶の香りが届いてきて、

ああ、日本人でよかった。

色々試してみたがやっぱりこの香りがいちばんしっくりくる。

そう改めて感じました。

夕刻からの来客の際は、透かし模様の影が壁に映り雰囲気の良い灯りも兼ねます。

 

仕事が立て込んでいて思うように掃除が行き届かない時、どうしても片付かない部屋を見て余計に気疲れするもの。

そんな時、玄関先を掃いて軽く掃除機をかけたあとに、茶香炉に火を灯す。

そうやってしばらくするとお茶の香りが広がりはじめると、思わず深呼吸する。焦っていた心が落ち着いて洗浄されてゆくような気持ちになるのです。

人はバタバタしていると気付かぬうちに呼吸が浅くなる。

茶香炉を焚くとお茶の香りが広がり必然的に深呼吸をする。

この深呼吸と香りがリセットボタンの役割をするようです。

 

 

どんなに寒くても窓を開け放ち空気を流してから茶香炉に火を灯すときりっとした香りが漂います。

 

 

 

 

 

 

創作工房 橘窯

@t.tachibanagama インスタグラムにて作品や展示会情報などご覧になれると思います。

もちろん、この茶香炉ゲットできます!

 

 

 

 

 

 

 

 

2022.01.14

香りの儀式 その壱

 

 

 

 

 

贈り物。

いつもよりくたくたになってアトリエから戻り、ポストを確認すると分厚い封書の郵便物が届いていた。

 

宛名に見るのびのびとした文字は、私よりひと回りほど若い友人のものだとすぐに分かった。

空が夕焼けの優しい色に染まり始めていた。

温かい飲み物を用意して窓辺のロッキングチェアに座って封を切った。

 

え!何これ!なにこれ!

 

 

 

 

私の名前のお香だった。

しかも私の好きな香り白檀入り。

彼女はアロマライセンスを取得していて効能にもかなり詳しい。

会うと必ずいろんな話で盛り上がるのだが、いつもハッと思い出したように

「右手を出してください。ハンドマッサージしてあげますよ。」

と、持参してきたオイルやタオルを手際よく広げて、その時の季節などに合わせてブレンドしてきたオイルの効能を説明してくれながら、温かい手でマッサージを始めてくれる。

「手を使うお仕事だから、やっぱりすごく凝ってますよ。」

手をマッサージして貰うってこんなに幸せな気持ちになれるんだ。

毎回、とろけそうな心地になる。

チャーミングな笑顔の彼女が、

へへへ。見つけちゃった!みゆきのお香!びっくりしました?

そんな声が聞こえてこた気がして、さっきまでのくたくたな気分が一気に和らいだ。

 

 

サプライズな香りの贈り物は実は2回目。

昨年、愛知県にお住まいの長いお付き合いのお客様から、感染者が激増でショウルームにまだ行けませんが、オープンのお祝いにと贈り物が届きました。

ピアノの鍵盤モチーフの箱を開けるととっても綺麗な色が整然と並んだ京都の好きなインセンスメーカーのものだった。

 

香りの香調を組み合わせて楽しんで下さい。

と、達筆な文字のメッセージカードが添えてあった。

 

 

 

 

これまで香りの違うインセンスを何本も組み合わせて使うという発想はなかった。

でも、よくよく考えてみると、組香遊びでは幾つも混じった香りを当てっこするわけだから、香りの階調を楽しむ使い方は何も特別なことではないわけで、これまで知っていたそのことはただの点の知識であり、実生活で取り入れるという線の知識にはなっていなかったのだとはたと気付いた。

まさに点が動いた瞬間だった。

 

綺麗で使うの勿体無い。

けど、使いたい!

どんな時に使おうか。

 

そうだ。

アトリエでひとつの作品が完成し切った日に後片付けが終わった後、その時の気持ちに近い香りのものを焚こう。

出来上がったひとつの作品を清める。

そんな思いで使い始めた。

 

頂いたインセンスの贈り物がきっかけで、昨年から制作工程のひとつの儀式となった。

 

今年はこのみゆきのインセンスが香りの儀式となる。

今年もどうか怪我のない制作で、ひとつひとつ佳き気持ちを込めた作品をたくさんたくさん生み出せますように。

 

香りは贅沢だと思われがちですが、常に動き続ける心を静かに留め、清めてくれるもの。

現代社会では、心をゼロベースにするためのひとつのツールではないでしょうか。

 

 

次回は、我が家の自宅での香りについてのお話しということでその弍、続編です。

 

 

 

 

 

 

 

2022.01.04

2022 年 新年あけましておめでとうございます!

 

 

 

 

 

九州地方のお正月は初日の出にも恵まれて、素晴らしい天気でした。

 

昨年は、後半がかなり立て込んだ日々を過ごしましたが、お正月は少しのんびりすることが出来まして本日より仕事始めとなりました。

 

 

 

昨日、今年初ライドということで秋吉台カルストロードにチャレンジしました。

前日の夜にバイクを車に積み込み準備し、まだ夜も開けぬうちに静かに自宅を出発。

関門海峡を渡り切って振り返ると橋の骨組みの隙間にすっぽりと朝陽が上がり、とても美しかった。

絶景はいつも写真に撮り損ねるものだ。

現地に着きバイクを下ろして準備が整い走り始めた時、時計は午前9時前だった。

 

 

 

地中の鍾乳洞、秋芳洞の方は若い頃何度も行ったことがあったのだが、地上のカルスト台地の方はどうにも行った記憶がない。

改めて日本一のカルスト台地は圧巻。

なかなかの迫力だった。

今は季節柄冬枯れの台地だが、夏の草原色の頃はまたさらに趣が増すことでしょう。

 

実はこの秋吉台はアメリカ軍とニュージーランド軍が砲撃練習場として目をつけていたらしいが、当時の県知事さんの度重なる書簡や、地元の人々の反対運動により8年ほどかかって守り抜いた末に今の秋吉台があるという。

 

ひとまず展望台に向かい、このような秋吉台にまつわる豆知識を看板にて学習しまして、いよいよカルストロードライド開始。

風は冷たいが朝陽が辺り一面を黄金色に染めて、気分爽快。

なんというドライブコースだろう。

まるで異国でライドしているような気分になり、景色の中にいる自分に酔いしれた。

びっくりするほどの渓谷になっている地形をぐるぐるとアップダウンを繰り返しながらひたすらに下ってゆく。

もうこのまま秋芳洞の地中に潜ってしまうんじゃないかというほどのひたすらのダウンヒル。

どれだけ下るのか。帰りはこれを上る。

上れるのか?

風を切って下りながら、私史上初のヒルクライム挑戦の覚悟を決めた。

 

下り切った底の部分に大正洞広場があり、観光客やバイクのツーリング客、珍しい車や外車のドライブ休憩所として賑わっていた。

 

ジェットボイルでお湯を沸かしてコーヒーブレイクを済ませると、

いざ、ヒルクライムのスタート。

 

ひとつ目の坂、クリア。

ふたつ目の坂もクリア。

問題はこの3つ目…

100メートル進むごとに1メートル高度が増す。

これをサイクリストの間では、斜度1%として呼んでいる。

かのツールドフランスのコースには、最大斜度26%というステージがあるらしいからもはや人の技とは思えないレベルだ。

 

と、話を現実に戻しますが。

この3つ目の坂は私には、かなりしんどかった。

クロスバイクでも一部カーボンを使用した車体の軽いバイクではあるのだが、車体も重いし、背負っている小さなザックや着ている服、いろんなものが重く感じる。

心拍数がいくら出ていたか手首のスマートウォッチすら見る余裕もなかった。

だめだ、無理はするまい。

まだ最低でもあと2回は坂があった筈だ。

 

一旦、降りて脈を整えつつバイクを押しながら坂を上った。

必死で漕いでいる友人の背中が小さくなってゆく。

 

呼吸が整ったところで再び漕ぎ始めて再び坂を進み、絶景ポイントで友人と合流。

 

 

 

 

聞くところによると、8%の斜度だったらしい。

驚いた。

自分には厳しい筈だ。

6%でもまだしんどいレベルの実力なのに。

 

でも、度重なるヒルクライムで少しコツを掴めたように思う。

新しい目標ができた。

 

走り始めた朝には殆ど車もバイクも少なかったが、次々にカルスト台地に延びる曲がりくねった道を爽快に走り去ってゆく。

殆どのドライバーの口角が上がっているように見えた。

 

まるでニューモデル車のプロモーションビデオのワンシーンを見るようだった。

 

初ライド。

かなりの挑戦、頑張りました!

挑戦をした清々しさと共に本日より制作活動を始動しました。

 

今年もライドやトレッキング時に見たもの、浮かんできた感情、などあらゆる善きものが自分のフィルターを通して形になりますように。

その形と共に皆さまの笑顔と沢山出会えますように、励みたいと思います。

 

今年もまた、どうぞ、よろしくお付き合いくださいませ。

 

 

 

 

 

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